本記事では、投球時のスピードやパワーを出すときに重要な筋肉(筋膜)のつながりである「ファンクショナル(機能的)ライン」の強化方法を紹介します。上半身と下半身をバランスよく動かし、安定性を高める効果もあります。
筋膜とは【アナトミートレインと野球の投球の関係】
「筋膜」とは、筋肉や骨、内臓を包んでいる膜のことです。人は、全身が筋膜でおおわれているため、「筋膜の全身ボディースーツに包まれているようなもの」と例えられたりします。
(出典:スポーツトレーニングの基礎理論より)
(参考:運動連鎖~リンクする身体)
アナトミー・トレイン
アメリカ人セラピストのトム・マイヤーズさんは、筋膜のつながりにはいくつかの流れがあると考え、その筋膜の連鎖(ライン)のことを「アナトミー・トレイン」という概念にまとめました。
書籍『アナトミー・トレイン』によると、体には大きく12本のラインがあり、ある筋肉が損傷を受けたり緊張をしたりすると、その筋肉に関係のあるラインに伝わり、動きの悪さが広がると考えています。
ファンクショナルライン
筋膜のラインには、3つの「ファンクショナルライン」というものがあります。
- 身体後面にある「バック・ファンクショナルライン」
- 身体前面にある「フロント・ファンクショナルライン」
- 側面にある「同側・ファンクショナルライン」
の3本です。
「ファンクショナルライン」は、主に運動やスポーツ時に、手足の動きを安定させ、バランスを保つ機能があります。
- バック・ファンクショナルライン
- フロント・ファンクショナルライン
- 同側・ファンクショナルライン
(出典:「アナトミー・トレイン」(医学書院)より)
バック・ファンクショナルライン |
「バック・ファンクショナルライン」は、背中側で上肢と下肢を「X字」を形成しながら連結しています(右腕と左脚、左腕と右脚をつないでいる)。腕を振ってボールを投げる動作に対して全身のブレーキとして働き、インナーマッスルの損傷を保護する役割もあります。 |
フロント・ファンクショナルライン |
身体前面で「X字」を形成しながら上肢と下肢を連結します。野球の投球動作(右投げ)では、左の下肢と股関節を通してパワーを強化し、腹筋の急激な収縮が、右手から投げられるボールにさらにスピードをつけ、威力を高めます。 |
同側・ファンクショナルライン |
水泳のクロールストロークで手を引いて水を押し下げる場合などに活動します。 |
ファンクショナルラインを強化してインナーマッスルを保護する
ファンクショナルラインを強化するエクササイズを行うことで、威力のあるボールが安定して投げられるようになります。インナーマッスルの保護にも役立ちますので、ケガ予防にもなりますね。
【ポイント】
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バック・ファンクショナルラインの強化
うつ伏せになり、両手バンザイの姿勢から、左腕と右脚を、タイミングを合わせて同時に持ち上げます。つぎに、右腕と左脚を同時に持ち上げる。同時にゆっくり上げて、ゆっくり下ろします。より強化するには、パートナーが軽く負荷をかけましょう。
より強化するには、パートナーが軽く負荷をかけましょう。 |
フロント・ファンクショナルラインの強化
仰向けで、両手バンザイの姿勢から、左腕と右脚を、タイミングを合わせて同時に持ち上げます。つぎに、右腕と左脚を同時に持ち上げる。同時にゆっくり上げて、同時にゆっくり下ろします。より強化するには、パートナーが軽く負荷をかけましょう。
より強化するには、パートナーが軽く負荷をかけましょう。 |
動画もあります
自分の体をより知るために
動作の最中は自分の体の動きに集中し、手足の動きの違いを詳しく感じとりましょう。
ファンクショナルライン上で、緊張が強い場所や動きづらい場所があったら、その部位は疲労が蓄積しやすく、将来的にケガをする可能性のある場所だと考えることが出来ます。
元気な時はイメージ通りの動きができるかと思いますが、問題は疲労がたまっているときです。体に疲れがたまっているときに、このエクササイズを行ってみると、筋力が弱い部分が上げづらく感じたり、タイミングがどうしても合わなかったり、と様々な異常に気づくはずです。
「体がちょっと疲れているな」と感じるときにも、自己評価のつもりで試してください。自分の体の特徴がつかめる良い機会になるはずです。
【参考文献】
- Thomas W. Myers /アナトミー・トレイン 第3版/医学書院
- 伊藤和憲法/筋肉のつながりを意識する – 筋膜連鎖が教えてくれるものは/スポーツメディスン・2018
- 島田智明ら/運動連鎖~リンクする身体/文光堂