一流のプロ野球選手でも苦しめられることのある腰椎椎間板ヘルニアの治療と予防

はじめに

この記事は、野球大好き11月号【コンディショニングガイド】に掲載された内容です。

今回は、一流の選手でもなりかねない腰ヘルニアについての基本的なリハビリ内容について解説していきたいと思います。

腰ヘルニアとは?

腰ヘルニアとは、正式名称だと「腰椎椎間板ヘルニア」といいます。まず、ヘルニアとは…ヘルニア=何かが飛び出すことという意味のことを指すそうです。ヘルニアってそういう意味なんだ〜って方が多いかと思います。そもそも、何かが飛び出すってどういうこと?となりますが、腰椎と腰椎の間に椎間板というクッションのような組織があり、その椎間板の中心部に髄核(ずいかく)という組織があります。椎間板の周囲に線維輪という組織もあり、なんだかのストレスにより線維輪が断裂することにより、中心部にある髄核が飛び出し、神経を圧迫したりすると言われています。

椎間板が損傷してしまう理由は様々ですが、椎間板が加齢とともに早期から老化しやすい組織であることや、二本足歩行により下位腰椎への負担が強くなっていることが大きな原因であろうと考えられています。腰ヘルニアの患者さんの年齢は50歳代にピークがあり、男性は女性の約2倍の頻度で見られます。

 

 

 

 

 

 

 

症状は?

通常は、腰痛やいわゆる「ぎっくり腰」のような症状が認められ、数日後に一側の下肢へと放散するような激しい痛みや「しびれ」は熾烈でほとんど満足に動けないことも多く、睡眠も妨げられるほどです。しかし、この痛みや「しびれ」は2-3週間でピークを越えることが多く、その後徐々に痛みや「しびれ」が和らいでいくことが多いです。症状は、一側下肢が典型的ですが両下肢に症状が出現する場合や、排尿・排便にも障害が認められる場合もあります。

原因は?

スポーツ選手であると、同一動作を繰り返し行っている選手に好発すると言われています。基本的にヘルニアになる要因は前屈動作などのいわゆる中腰の動作と言われていますが、腰椎への負荷に対する相関図はこのようになります。(図2)

そもそも、回旋動作メインの野球ですら、ヘルニアになる選手がいるということですから、前者の同一動作の繰り返しで椎間板にストレスが生じヘルニアになっているのではないかと思います。

野球の動作での注意点

⑴偏った(かたよった)動作の繰り返し。

例:右打ちのスイングをひたすら行うこと。対策:右打ちのスイングのみならず左スイングも取り入れる

※練習の時、素振り1,000回‼︎などというメニューがありますよね。素振りすることは、自分のスイングを固める為や試合のイメージをしながら練習を行うと思うのでいい練習ではあるのですが、ひたすら右だけでスイングをしていると偏った筋肉の使い方をしてしまうのです。そうならない為に、逆スイングを行うことをオススメします。皆がみんな偏ったスイングをしていると、痛めるのではなくここではなり得る可能性の話をしていますので参考程度にしてください。

⑵中腰姿勢での捕球

例:下半身の硬さにより、腰を落とす事の出来ない捕球体勢。対策:下半身の硬さを改善させ、重心を低くする

※結構、左図の取り方をしている選手は、監督やコーチに「もっと腰落とせ〜」と言われるかと思います。このような選手は、下半身の硬さが著名に出現しているのです。下半身の柔軟性は、隣接部位である腰にも関連があるのです。左図のような、取り方をしていると腰への負担が増強するのです。そのようにならない為にも、日々の柔軟運動は大事になってきます。また、気軽の自宅などでできる柔軟の方法を下記のQRコードに添付するのでご参照ください。

リハビリと予防

基本的に、初めの段階は、椎間板に負担がかからないように腰を前に曲げる肢位:前屈動作は避けます。

①腰椎だけの負担が増大している為、胸椎部の伸展可動域運動(主に胸を張る。胸椎を後ろに反らす事)を促す。

上の図は、間違っている方法です。腰椎で反らしているので、逆に腰を痛める可能性が高いです。

下の図は、正しい方法です。腰椎を後ろに反らす事を抑える事ができ、肩甲骨の内側に寄せる動きで胸椎伸展をサポートしています。

大胸筋や小胸筋などの前胸部筋群のストレッチを促す。①を促す要素の一部である。                ※下肢に関しては、肢位によって骨盤と腰椎の動きも変化してくる為、このエクササイズをする際は、膝を立てます。腰椎の負担軽減の為に。

胸を張り、前胸部をストレッチするイメージと同時に背骨の位置にあるストレッチポールに向かって肩甲骨を内側に寄せます。(赤矢印の方向に動かす)

骨盤・股関節の可動域獲得を目的にハムストリングスのストレッチを行う。今回の方法として、生理的前弯位(腰を丸めない様)を保持した状態で行う。

右図の伸張肢位では、赤丸の説明でもある様に、骨盤を立てた状態をキープする事がポイントである。骨盤が倒れた状態になってしまうとうまくストレッチング出来ないので注意する事。

腰椎の文節的な安定性獲得を図る為に、体幹のローカル筋(腹横筋)の収縮トレーニングを行う。体幹筋のインナーマッスルであり、腰椎の安定性を獲得する為に行う。息を吐きながら、お腹を凹ます。基本的に10秒「吐く」、「吸う」を繰り返し10回行いましょう。

⑤体幹エクササイズ(競技復帰に向けてだと、アスレッティックリハビリテーションを行う。スポーツ動作に類似した、エクササイズを行うと良い。例えば、野球だと上肢(腕、肘、手)の筋収縮を促しながら体幹のトレーニングを行ったりするとなお良い)
【フロントブリッジ】

【サイドブリッジ】

【バックブリッジ】

【まとめ】

基本的に、右投げ右打ちの選手が偏った練習を行っていると左右のアンバランスが起き椎間板に負担がかかってしまいます。
今回のテーマである腰椎椎間板ヘルニアは、プロ野球選手や高校球児にも少なくない。特に高校球児に関しては、
①同一動作の反復②下肢筋の硬さ③肩甲骨の可動性低下④体幹筋のアンバランス(左右、インナーとアウター)が挙げられるかと思います。また、身体ができあがっているプロ野球選手でも同一動作の強いストレスにより椎間板を圧迫しヘルニアになる恐れもあります。

これらのことから、

① 腰椎の負担軽減の為に肩甲骨の可動域、下肢筋(主に股関節)の柔軟性の獲得
② 腰椎レベルのインナーマッスルの筋収縮
③ 体幹筋群(アウターマッスル)の筋力増強
④ ②と③の筋バランスの獲得

が必要になってくるかと思います。

また、今回の掲載は基礎編なので、そこから野球やその他スポーツに類似したアスレティックリハビリテーションが必要になってくると思います。

【参考・引用文献】

・臨床スポーツ医学 スポーツ損傷予防と競技復帰の為のコンディショニング技術ガイド 2011 文光堂

・片寄正樹 腰痛のリハビリテーションとリコンディショニング 文光堂

・西良浩一 極めるアスリートの腰痛 100%を超える復帰 文光堂

・半谷美夏 三富陽輔 腰椎椎間板ヘルニア保存療法としての運動療法

臨床スポーツ医学:vol33.No10(2016-10)

・金岡恒治 アスリートの腰部障害の発生機序と予防対策 関節外科vol35No5(2016)

・中前稔生ら6人 各論アスリートにおける腰椎椎間板ヘルニアの保存療法 臨床スポーツ医学:vol30.No8(2013-8)

・林協司ら9人 スポーツ選手における腰椎椎間板ヘルニア

整形外科と災害外科51(2)361~363,2002

・日本整形外科学会 腰椎椎間板ヘルニア(1-2:引用)